私と仕事(総合病院で働く社会福祉士)
2012年12月特別講座で事例提供をした井上さんが、事後に書いてくださった文章です。
井上未希さん(2010年卒)
病院で働くソーシャルワーカーの実際
私は、京都市内の急性期病院でソーシャルワーカーとして日々クライエントの相談支援を行っています。医療機関に属するソーシャルワーカーをMedical Social Worker(MSW)とも呼び、院内では“MSWの井上さん”として仕事をしています。
主な仕事内容ですが、まず当院で一番多いものは退院支援です。高齢社会の現代において地域の病院にはやはり高齢の患者さんがたくさんおられます。病気や入院したことにより、入院前の状態から変化することが往々にしてあります。例えば、医療処置が必要になったり、ADLが著名に低下したりすることで、支援体制を整えなければ元の自宅へ帰ることが困難なことがあります。私たちは、今後の生活をどうしていきたいのか、ご本人やご家族と現状や希望を踏まえ、生活について一緒に考えていきます。中には、様々な社会資源を利用して直接自宅へ退院できる方もいますが、自宅へ帰る為にリハビリが必要な方や生活施設への入所を希望される方には適切な施設へ繋がるよう調整も行います。その他経済的な事(医療費の支払いが困難)や心理社会的問題(療養上不安な事や家族の困りごと、時には虐待ケースも)の相談支援もあります。とても簡潔に記載しましたが、どんな支援であっても結果がすべてではなく、問題解決に向かう過程を一緒に踏んでいくことがソーシャルワーカーとしては重要なところだと思います。
医療の中での唯一の福祉職
医療現場の中にある唯一の福祉職として、クライエントの生活や権利を大切にしていくために院内外の他職種との連携は必須であり、私はそういった面でもやりがいや魅力を感じます。病院という一般市民に身近な施設だからこと生活に直結する問題が生じます。病気や怪我をしても、病気や障がいを持ちながらでも、その人らしい生き方ができるよう支援をしていくことを目標に、日々クライエントと向き合っていきたいと思います。
専門職としての私を磨く事例検討
さて、去る12月に参加した特別講座では、私は事例提供者として参加させて頂きました。事務局から事例提供の依頼があった時点では、「事前準備は全く必要ない」とのことだったので、当日までどんな事例検討になるのか、本当にこの事例でよいのか…など不安でした。日常よく目にする事例検討は、紙ベースで資料を準備し、年齢・性別・疾患・家族状況(ジェノグラム)・経過・アセスメントなどをあらかじめ記載したものを用意し、当日はさらに細かく情報を口頭で述べていくという進め方がほとんどです。しかし今回は、クライエントの情報は最小限(年齢・性別・特徴程度)の提供にとどめるように講師から冒頭で指示があるところから始まりました。通常の事例検討を、多くの情報から「頭で考える事例検討」と表現するとすれば、今回の事例検討は「身体で体験する事例検討」という感覚なのではないでしょうか。おそらくこれは実際にやってみないと理解しにくいかと思うので、文章で十分に伝えきれないことが残念です。
家族造形法の面白さ
事例提供に選んだケースは高齢男性一家族でしたが、私は参加者にこの家族の役をお願いし、それぞれにポーズをつけていく(彫刻していく)ことをしました。私自身が捉えているこの家族像を立体的に表現していくので、目線や距離、動き等も重要でした。彫刻を終えた後、今度は役が当たらなかった人たち(ギャラリー)が、出来上がったもの(作品)を観る時間が設けられます。その後、役の人とギャラリーがそれぞれ感じた事を事例提供者へフィードバックします。その後は、役を他の人がやってみたり、今の家族関係を良くするにはどうすればよいのかなどという視点でさらに作品を展開させる(ほかの役の登場)こともさせて頂きました。実際に、私は形作るだけでなく、登場人物の役にもなり、粘土になる体験もしました。
実際にやってみて、思わず「おもしろい!」と言ってしまったほど不思議な刺激をたくさん受けました。最小限の情報提供から始まったはずなのに、今まで私自身が事例の担当者として感じていたことを役の人・ギャラリーも感じていたり、実際に役になってみないと想像もできなかった思いがけない感覚を体験することができました。また、より良い関係性への展開を考える際に、役の立場ごとに思い描く理想の形が異なることにも改めて気づかされ、実際の支援の際に「見えていない部分」が大きかったということを再認識させられました。
学生時代に実習で学んだ「in the shoes」の感覚
学生の時に社会福祉実習の授業で「in the shoes」という共感の感覚の考え方を学びました。他人の靴に足を入れてみた時に、多少なりとも違和感がありますが、実際にその方の感じている感覚に支援者自身を投じてみる…という演習だったと思います。今回の事例検討は、まさにそれに近い方法ではないかなと思いました。立体的に表現されたものがそこに在るということで、紙ベースではなかなか掴みにくい距離感や空気感が体験でき、さらに情報が少ないからこそより感覚が研ぎ澄まされ、あらゆるものをフィードバックしようしあう空気がその場に生まれ、支援のヒントがいくつか得られたように思います。 (社会福祉士)
2013年2月15日 更新 カテゴリー:私と仕事