同志社大学社会福祉教育・研究支援センター Doshisha Education Research Center of Social Welfare同志社大学社会福祉教育・研究支援センター Doshisha Education Research Center of Social Welfare

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カテゴリー 【開催報告】

7月例会報告

 去る7月25日、ケーススタディ編(ソーシャルワーカーの当事者研究編)第二回を開催しました。前回(5月例会)、当事者研究の進め方や目的などについてのレクチャーが中心でしたので、今回が実際に取り組む初回となりました。
 今回の発表担当の竹安さんは、定例カンファレンスで発表するのは3年前に続いて二回目です。当時の発表もきいたことがあった参加者たちからは、終了後、「進化してる!」との声も聞こえてきました。相談員として7年目をむかえ、後輩の育成・教育指導が日常業務の大きな課題であるとのこと。今、先輩の立場にある人、後輩の立場にある人、管理職についている人・・・参加者それぞれが、人を育てることについて考える機会となりました。

定時になると、テーブルを囲んでカンファレンスが始まります

20年目、7年目、5年目、3年目、2年目、一年目・・・さまざまなキャリアの参加者が揃いました

●報告担当 竹安彩さん(2006年卒 小規模特別養護老人ホーム生活指導員 社会福祉士)
●報告テーマ「人との繋がりから生まれるもの~思いがかたちになるということ~」
●参加者 14名
(精神科クリニック、精神科病院、一般病院、老人保健施設、障害者作業所、障害者通所施設等勤務の社会福祉士および精神保健福祉士、公務員福祉職など)

●当日の風景
 この「ソーシャルワーカーの当事者研究」は、べてるの家で始まった当事者研究の方法を援用して組み立てられています。

 べてるの家の当事者研究とは、統合失調症の人たちとともに活動してきたソーシャルワーカーの向谷地生良氏(現 北海道医療大学)が、どんな専門職よりも、病気を抱えながらの生活の労苦に向き合っている患者自身が、自分を一番知っている専門家である、という理念にたち、患者自らが語る活動から生まれたものです。患者自身が経験している労苦のきっかけとなっている病気(病名)を一旦自分から切り離し、労苦のリアリティを的確に表現する自分なりのオリジナルな病名(テーマ)を付け直し、その病気との付き合い方、生活場面での対処の仕方をいろいろ考えたり、試したりして編み出した成果を患者自ら(当事者)が発信する活動です。当事者による研究は、いまや同じ悩みを抱える仲間同士があつまって共同研究に発展するなど、「まずは自分たちで何とかしてみたい」という力となって全国に活動の輪が広まっています。

 空閑先生はこの活動に着目し、社会福祉の実践家が「個人的な経験を言語化し、このカンファレンスの場で社会的に共有し、そこから得られるものを私たちの共有財産とする」ことを趣旨として企画したのが、「ソーシャルワーカーの当事者研究」です。「振り返りの専門職といえるソーシャルワーカーが、自らの実践の言語化を通して、利用者一人ひとりへのより適切なよりふさわしい支援のかたちと、それを支える理論や知識・技術・思考などの知性(ソーシャルワークマインド)を共に見いだし、獲得し、共有し、育んでいく」ことを目指しています。

 「ソーシャルワーカーの当事者研究」はどんな風に進められるのでしょうか。以下にご紹介したいと思います。

 会は、司会者(空閑先生)、報告者、聞き手(参加者)、コメンテーターの役が用意されています。

 まずはじめに、報告者と司会担当の空閑先生とで事前にやり取りしながら作成した報告用のケースが配布されました。この報告用ケースには、①テーマ、②キーワード、③報告本文、④私が「辞めないでいる理由」、⑤皆さんに聞きたいこと、意見交換したいこと、以上5つの項目が書かれていました。この報告用ケースは、報告者が書き上げたものですが、②のキーワードについては、ケースを読み込んだ空閑先生が拾い上げたものだそうです。今日の報告テーマは、「人とのつながりから生まれるもの」。キーワードは、「出逢い」「つながり」「教育指導」「思いをかたちに」「自分が変わること」「無限大の可能性」というものでした。報告本文は、「福祉を担う仲間を支えたい」「私の新人時代」「思いをかたちにするソーシャルアクション」「出逢いを通して広がるこの仕事の素晴らしさ」という4部構成で書かれたものでした。
 

まずは報告者が報告用ケースにそって話していきます

 この報告用ケースを眺めながら、竹安さん自らが報告を行います。補足したい項目などがあれば、自由に付け足しながら、ゆるく脱線しながら話しても構いません。20分ほどかけて、ゆっくりと竹安さん自身の言葉で報告がなされました。
 テーマにそって語られた報告内容で一番時間をかけて報告していたのは、「傾聴するということ」についてだったと思われます。対利用者とおなじくらい、対スタッフ、対後輩(新人職員)に対しても丁寧に行うことの大切さにまつわるエピソードなどをからめ、報告者自身が、「傾聴」に関して学び続けていること、自分が傾聴ボランティアに傾聴してもらった体験が実際に実践の場面で役立ったことなどが語られました。
 「この人は何に困っているのかをまず聞いてみようという気持ちを利用者さんに対しても、同じく、新人さんに対しても・・・」という竹安さんの言葉には、参加者の多くがうなずいていました。

他分野で働く同級生のソーシャルワーカーからの共感・賛同の言葉

 

 20分の報告の後、今度は参加者が順番に、感想や質問を報告者に投げ返していきます。
    「私の新人時代、いつ抜けられるのかなあ」
    「新卒でいきなり生活相談員というのはしんどいかも」
    「うちの職場は、一人抜けると死活問題」
    「7年目になって理解できる、当時言われた上司や仲間からの言葉とかは?」
    「やりがいだけでは追いつかなくなっている部分がある」
 参加者の中には、感想や質問がどんどん湧いて出てきたようで、参加者も喋ることを焦らず、一人ずつゆっくりと語っていきました。あっという間に60分が過ぎていきました。

 次に、報告者が用意してきていた3つの「聞きたいこと(忘れられない出逢いは?福祉の担い手の育成や福祉の発展に関わる際に大切にしてきていることは?新人教育の工夫は?」に焦点をあて、今日の報告者のテーマをさらに深めるとしたら、どんな提案ができそうか・・・参加者も一緒に頭をひねり、提案をしていきます。今日のテーマは、参加者の大半が興味をもったのか、福祉の人材育成における傾聴の大切さ・その実践に集約されていきました。他の参加者も自分の問題意識として身近に感じた課題にそい、参加者それぞれの個人経験や知識を披露しあい、全員が報告者に向かってコメントをしていきました。

 会の終わりでは、コメンテーターからの簡単なコメント後、本日報告を担当した竹安さんからの感想が述べられ、会は終了となりました。

 今、等身大の自分自身が感じている課題の中から、取り組みたいと思っているテーマを選ぶことがポイントとなります。選んだ取り組みテーマについて、まずは自分で調べてみること、そして実際に実践の中で生かしてみること、やってみてどうだったかを自分の言葉で評価してみること、その中から次なるチャレンジ課題が見えていればそれが何かを明らかにしていくこと・・・ソーシャルワーカーの一人一人が、力をつけることをたゆまず怠らず、まずは等身大の自分から仲間がいるサポーティブな場でスタートしてみること。

 この定例カンファレンスでは、継続的にこんなことに取り組んでいます。

2012年8月9日 更新 カテゴリー:開催報告

6月例会報告

 去る6月20日、「私のケース討議」編二回目が開催されました。今回も多くの卒業生が仕事終わりにかけつけてくださいました。「毎回の参加は無理かもしれないけれど・・・」と、大阪、兵庫からの参加者もありました。いつでも、好きな時に顔を出していただける場ですので、ご自分のペースで活用していただければと思います。

●ケース担当 小西男さん(2010年卒  公務員福祉職 社会福祉士)
●ケース教材 「気がつけば、この仕事に就いていた」
●参加者 14名
(一般病院、大学病院、精神科病院、知的障害者通所施設、公務員福祉職など所属の社会福祉士・精神保健福祉士、特別支援学校教員、看護学校学生など)

●当日の風景
 自己紹介から始まり、いつものように、ディスカッションリーダーがケースを朗読し、ケース教材をみんなで読み合わせた後、三つのグループに分かれてグループ討議をしました。一つのグループにホワイトボードが一枚ずつ。本日用意された問にそって、まずはウォーミングアップとしてスモールグループで自由に討議を行いました。

4.5人ずつのグループ。ケース提供者も混ざって討議します。

 いつもは同じ職場で働く先輩、後輩も、グループ討議では対等に、真剣に、自由に、意見を出しあいます。慣れない・・とつぶやきながらも、参加者がグループ討議の司会をしながら、メンバーの意見をひとつずつホワイトボードに書き上げていきます。

人の生死に遭遇するかもしれない責任ある仕事・・・思わず立ち上がって意見を述べる姿も。

 この後は、全員での全体討議に移っていきます。スモールグループで発言したこと、あるいはその意見を発展させて思いついた新たな意見などを参加者全員の場で披露していきます。ケース提供者の小西さんにちょっと聞いてみたい質問も自由に投げあいながら、問いに対する自分なりの意見「こんな時、私だったらこうしていると思う・・・」という発言が今日も途切れなく溢れてきました。

 全体討議の最後に、ディスカッションリーダーより、今日の討議計画に基づいて用意されていた「討議の着地点」が披露されました。今日は、小西さんのケースを通して、現任者にとっての定例カンファレンスの意義について考えてみました。春に新たなメンバーも増えたこともあり、定例カンファレンスが卒業生のみなさんにとってどのような意義があるのかを仕切り直して考えるよい機会となることを期待し、事前に討議計画を組み立てていました。。
 参加者とともに討議を通して学びの共同体を築いていくこの場は、ケース教材と問いを手がかりに、「自分は今、どこにいるのか」「みんなはどこでどんなことを考えたりしているのか」などの俯瞰をひたすらにくり返す場であるといえます。メンバーとの討議を対象化し、吟味することを通して、「わかり直すことの重要性」(苅宿俊文 2012:113)を感じる場であるのではないか・・・討議計画ではこんなことを意図して今日の討議の着地点として用意していましたが、参加者のみなさんはそれぞれどこに、どんなふうに着地されたでしょうか。

コメントを聴く時間は、ソーシャルワークと関連付ける重要な瞬間です

 最後にみなさんの討議をじーっと聴いているコメンテーターから、いつものようにコメントがありました。いつもじっくりと黙ってひたすら耳を傾けている役目のコメンテーターが最後の数分で喋る時間は、今日の討議ででてきたさまざまな意見や心の中に湧いている気づきをソーシャルワークと関連付けて締めくくることができるグループ討議の重要なエンディングの瞬間です。

 そして最後の最後に、ケース提供者の小西さんが、ケースを作成してみて思ったこと、ケース討議に参加してみて思ったことを自由に話します。
  

真剣な討議の後、みんながほっとして心が緩む最後の時間です

 終了後、各自、参加した感想を一言書き残します。今日もあっという間の21時となりました。

●本日の引用文献
苅宿俊文(2012)「まなびほぐしの現場としてのワークショップ」苅宿俊文他編『まなびを学ぶ』東京大学出版

  

2012年6月29日 更新 カテゴリー:開催報告

5月例会報告

 さる5月30日、今年から定例カンファレンスの新しい企画として始まる「ケーススタディ編」の初回講座が開催されました。今回は、卒業生であれば誰でも参加可能とさせていただきましたので、春から働き始めた1年目から、もうすぐ20年、15年を迎える先輩なども参加され、さまざまな経験年数の卒業生が集まりました。初めて顔を合わせる人、久しぶりに会った人、職種は別でも同じ地域で働く福祉職同士、一旦福祉の仕事を離れてひとやすみ中の人、久しぶりに母校同志社に足を運んだ人など、会のはじめの自己紹介ではいろんな思いが語られ、あっという間に場はなごみました。空閑先生の熱い講義も白熱、あっという間の2時間となりました。

●タイトル: 「ソーシャルワーカー(社会福祉専門職)の当事者研究」
●内容:今年から新たに始まるケーススタディ編の初回講座でした。空閑先生の講師のもと、①本講座の目的②本講座の意義③具体的な進め方(準備)④自由討論で構成されました。鶴見俊輔の言葉を借りれば、大学での社会福祉専門職教育における学びが、「型どおりにセーターを編む」学習だとすれば、この定例カンファレンスのケースメソッド編(私のケース討議)では、編んだセーターを着て、しばらく現場で実際に働いてみたソーシャルワーカーが、一旦「ほどいてもとの毛糸にもどす」ことを目的とした場であるということができます。そしてさらに、今回始まるケーススタディ編(ソーシャルワーカーの当事者研究)では、ほどいた毛糸を「自分のからだにあわせて編み直す」ことを目的とした場であると考えることができます。空閑先生は、ソーシャルワーカーを「振り返りの専門職」として定義し、「援助者としての自分(職業的自己)の体験の独自性に焦点を当てながら、体験の構造を解明していく」ことを目指して進めていくということが講義の中で説明されました。
●参加者 17名(市社会福祉協議会、病院、老人保健施設、クリニック、市役所、特別養護老人ホーム、デイサービスセンター、障害者施設等で勤務する社会福祉士、精神保健福祉士のみなさん)

 今後のカンファレンスの予定ですが、毎月開催されている定例カンファレンスでは、交互に「私のケース討議編」と「ケーススタディ編」を実施していきます。基本的には、「私のケース討議編」にてケース提供をしてくださった経験のある方から、「ケーススタディ編」にて発表していただけるように考えています。

                                     

2012年6月20日 更新 カテゴリー:開催報告