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私と仕事(精神科病院で働く精神保健福祉士)

私と仕事(精神科病院で働く精神保健福祉士)

                           川上尚子さん(2006年卒)

 まずは、これまでの仕事を通しての想いを文章にする機会を与えていただいたカンファレンスの場と、また、そんな私のまとまらない気持ちを基にディスカッションをして新たな気付きを与えてくれた参加者の皆さんに感謝をします。

困難な状況を抱えながら懸命に生きておられる方を支援するとき心に思うこと

 私は精神科病院の医療福祉相談室のソーシャルワーカーとして入職し、もうすぐ丸6年になろうしています。業務としては、入院・外来問わず患者さんの生活・療養上の相談や退院に際しての相談に乗ったり、それに必要な関係者との連絡調整を行ったり、受診・入院相談の対応と調整を行ったりしています。患者さん本人や家族や関係者と一緒に、精神科の病気を持った方がどうしたらその人らしく生活が出来るかを考える仕事です。

 2011年の9月の定例会で作成したケースレポートの内容を考えるとき、私は迷わず、ソーシャルワーカーが行うクライアントへの関わりを、自分自身がどう考えて仕事をしてきたかということをテーマにすることを決めました。そしてその中で、先輩からもらった『ソーシャルワーカーはいつも迷いながら関わるもので、その関わりがよかったかどうかなんてその人の人生が終わった時にしか分からない、お礼を言われたり達成感を得たりすることを求めてはいけない』という言葉を交えて、ひとつの事例を紹介することにしました。少しストイックすぎるのかもしれませんが、私が関わるクライアントさんはみな、本当に困難な状況を抱えながら懸命に生きておられる方ばかりですから、むしろすっきりと華麗に支援をしてしまえることのほうが怖いと思うのです。

患者さんが自分の生活を自分のものにしていく

 少し話が変わりますが、以前、同じ病院の看護部の役職者から「仕事をしていてどんな時が一番うれしい?」と聞かれたことがありました。私は「患者さんに“もうあなたがいなくても大丈夫”と言われているような気持ちになるときです」と答えました。具体的に言うと、始めは私が紹介してデイケアに通うようになったとしても、そのうちに患者さんが逆に私にデイケアのことを教えてくれるようになるなど、患者さんが自分の生活を自分のものにしていってくれていることを感じたときのことです。質問をした人は「看護師は自分が役に立ったときのことを挙げる人が多いのに、その逆なんだね。なんかいいね。」と言ってくれました。きっとそれは、クライアントの“人生”と向き合うというソーシャルワーカーの姿勢を学生の時から学んできたからだと思います。だからこの言葉は私にとって嬉しいものでしたし、これからもそんな気持ちで関わっていきたいなと思えました。

集い、学び、行動する意欲

 ケースレポートの最後にはソーシャルアクションについても触れました。私は元々人と関わることが好きで社会福祉学科への進学を選んだので、大学の時は制度や政策などの勉強はそこそこに、ボランティアなどに打ち込んでいました。しかしいざ現場に入ると、政策の変化で患者さんの生活が大きく変わることや、精神障害者が地域で暮らすにはハードルがたくさんあることを目の当たりにしました。多くの当事者や先輩方は、そんな現状を変えるために集い、学び、行動していました。それだけ精神障害者を取り巻く現状が悲惨だということが言えるわけです。そんな中、私もいずれはそういうことがきちんと出来る人になりたいと考えが変わり、仕事は続けながら大学院の総合政策科学研究科に入学し、昨年卒業しました。「社会的入院の解消」「地域移行」と言うけれど、そこには本当にたくさんの問題が立ちはだかっていて、一筋縄ではいきません。でも、これからも努力をしていきたいと思います。

つながりを大切に、末永くこの仕事を

 仕事をしながら、疲れたり嫌になってしまったりすることはもちろんあるけれど、やめたいと思ったことは一度もありません。そうやってたくさん悩みながら仕事をして、たくさんの人と出会えるソーシャルワーカーという職につけて、本当に良かったと思っています。これからも、自分の職場の中だけでなく、他機関の精神科ソーシャルワーカーのつながり、大学の同窓生とのつながりなどを大切に、末永くこの仕事をやっていきたいなと思います。

                      (精神保健福祉士・社会福祉士)

※2011年9月の定例会にて川上さん作成のケースを用いてケース討議を行いました。

2012年2月28日 更新 カテゴリー:私と仕事